2013年01月23日
日本企業は昔のパンパースと同じ間違いを犯している(ニューズウィーク日本版) - ニュース・コラム - Yahoo!ファイナンス
元P&Gのマーケティング責任者のステンゲルが、面白い話をしています。
日本企業の現在の状況を昔のP&Gのパンパースの失敗に例えています。
ブランド戦略の重要性というポイントでたいへん参考になります。
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ブランド価値が企業の優劣を決める今、やみくもに品質を追求してじり貧に陥らないための、本当の成長戦略とは
メンター P&Gを大きく成長させた経験から経営者に助言するステンゲル
日本ブランドが危なくなって久しい。今では世界に2つとない心躍る製品を生み出しているのはソニーでもパナソニックでもなくアップルであり、アップルを脅かしているのはサムスン電子だ。さらにそのすぐ後ろには、中国勢も迫っている。
一方、株式時価総額に占めるブランド価値の比率は高まる一方で、ブランド戦略は成長戦略そのもの。米プロクター&ギャンブル(P&G)の元グローバル・マーケティング責任者で『本当のブランド理念について語ろう──「志の高さ」を成長に変えた世界のトップ企業50』の著者であるジム・ステンゲルに、ブランド価値向上の秘訣と日本ブランド再生のヒントを聞いた。
──消費者の忠誠心と財務成績をベースに世界のトップブランドをランキングした「ステンゲル50」に入った日本企業は、楽天市場一社だけだった。なぜこんな結果になったと思うか。
日本にもトヨタ自動車のように素晴らしい会社があり、私は高く評価している。東日本大震災の影響がなければ、トヨタはリスト入りしていただろう。
一方、日本企業はあまりにも長い間、製品、技術、生産すべてがうまく行き過ぎて、マーケティングをあまり重視してこなかったのも事実だ。製品は勝手に売れたし、販売網もあったし、市場も大きかった。未来を作らず、新しい需要も作らず、革新的な製品も生まれない。だが、今後数年の間には非常に面白い変化が起こるだろう。主要産業の主要企業のなかにも、うまくいかないところが出てきたからだ。
成長する企業はマーケティングを重視し、グローバルに戦えるブランドを作る。日本に必要なのはグローバルブランドだ。韓国にも中国にも非常に強いブランドがある。日本企業はいくつかの韓国企業に遅れているし、中国企業も急速に台頭している。彼らには、グローバルブランドを作ろうという大きな野心がある。その点、日本は遅れている。
──アメリカの優良企業で構成するS&P500社の株式時価総額のうち、1980年にはほとんどすべてが工場や現金などの有形資産だったが、2010年にはそれが40〜45%に落ち込んで、半分以上がブランド価値のような無形資産になったとある。
ブランドの重要性を裏付けるデータだ。実際、「ステンゲル50」に入ったトップブランド企業とS&P500社の株価のパフォーマンスを比べると、2000年1月からの11年間でステンゲル50社の株価は382.3%、S&P500社は−7.9%と大きな差がついている。
ブランドの価値が会社の価値の半分を占めるなら、当然、それに責任を負う人間が必要だ。日本企業には、そういう人間がいないのではないか。
──それは、あなたもP&Gで務めたグローバル・マーケティング責任者とかCMO(最高マーケティング責任者)のことか。
マーケティング部門の責任者は必ず必要だ。多くの日本企業はマーケティングを財務や技術開発のような専門として見ていな い。販売促進活動の一環のように思っている。それが問題だ。販売が目指すのは、今日、明日、来月などの短期でたくさん売り上げること。マーケティングは長期的に需要を創造するもの。製品開発を根本から変えるようなもの。マーケティングは消費者を理解し、企業に長期的な勝利をもたらすものだ。
── 具体的には?
企業のビジネスの背景にある理想を定義づけ、それを広く全社員と分かち合い、一丸となってその理想を追い求め、各部署で理想を具体化するための行動に落とし込む。これがマーケティングで、この一連のプロセスを完結させるにはリーダーがいなければならないし、強力なマーケティング部隊がなければ実現は難しいだろう。
とはいえ、誤解しないでもらいたい。これはマーケティングについての本ではない。企業の哲学、成長へのアプローチに関する本、企業を率いるリーダーすべてにとっての本だ。私はP&Gにいた25年のうち18年間はマーケティング以外のさまざまな仕事をしていた。この本はいかにして持続的な成長を可能にするかについてのものだ。
──急速に成長を遂げるビジネスを動かしているのは「ビジネス・アーティスト」だとあなたは言う。ビジネス・アーティストとは何か。
成長ブランドの創造には人々を感動させ魅了するブランド理念が欠かせないが、それはビジネスマンよりアーティストの仕事だ。フランスの高級ブランド企業、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)のベルナール・アルノーCEO兼会長はこう言っている。「スター・ブランドは、芸術的で創造的な精神からしか生まれない」
実際、偉大な製品、勢いのある組織、消費者ニーズのいち早い発掘、差別化の上手さなどで優れた企業を思い起こせば、必ずそこにはビジネス・アーティストがいる。スティー ブ・ジョブズはもちろん、その最たる例だ。彼の場合、ビジネス運営面はCOO(最高執行責任者)だったティム・クックが担っていた。一人で二役を兼ねられるリーダーもいるが、別々でもとにかく権限をもつアーティストがいることが重要だ。LVMHのアルノーは、傘下の企業のすべてで、ビジネス運営者の役割とアーティストの役割を別々の人物に任せている。
成長しない会社というのは戦術やオペレーションのことばかり考えていて、ビジネスの創造的で芸術的な側面のことをやっていない。脳の片側、論理面しか使っていないCEOが多い。そしてもう片方の感性面には苦手意識をもっている。だが組織を率いるリーダーは本来、感情的に成熟していなければならない。
そういうリーダーが少なすぎる。ビジネススクールはビジネス運営者ばかりを量産しているが、もっとアーティストが必要だ。
──ブランド理念というのは具体的にどういうものか。
理念はブランドに生命を吹き込むものだ。その点、15年前のパンパースは死んだも同然だった。紙オムツのパイオニアだったにも関わらず、後発企業に市場を奪われウォール街からはP&Gのお荷物扱いまでされるようになった。なぜなら、当時のパンパースはひたすら、吸水性がよくすぐ乾くという利点だけを追い求めていたからだ。品質や機能に重きを置きすぎるというのは、今の日本企業にも共通する問題だろう。いいものは作る。だが他社製品と大して変わらない。
パンパースに足りなかったのは、いかに人々をハッピーにして喜ばせるか、驚かせるか、人生を素晴らしいものにするか、という高次の理念だった。母親たちがいつも心配しているのは、オムツが他社製品より速く乾くかどうかではなく、赤ちゃんが幸せか、ちゃんと育っているか、食べているか、ということだ。
だったらオムツのことは脇へ置き、赤ちゃんを育てる母親の友達になることをブランド理念にしようと考えた。すると、赤ちゃんの発達段階に合わせたオムツを開発したり、ウェブサイトで子育てについての質問に答えるサービスを立ち上げるなどの発想が生まれてきた。これまで乾きやすいオムツを作って売るだけの仕事に物足りなさを感じていた社員も一丸となって母親たちのことを考え始めた。次第に母親たちにも支持してもらえるようになり、売上は3倍になり、利益も増えた。
──当たり前のようだが、顧客不在の製品開発になってはいけない。
顧客不在で成長している企業は思いつかない。偉大な企業はみな顧客中心主義だ。顧客サービスでナンバーワンの企業の例を挙げよう。アマゾン・ドットコムに買収されたシューズ通販会社のザッポスだ。彼らの理念は、幸せを配達すること。従業員は顧客と長電話したほうが評価が高い。顧客のほうも、一度電話すればザッポスが大好きになる。靴のサイズがわからなければ3サイズ送る。商品は他の店と大して変わらないのに、顧客の忠誠心は極めて高い。
──顧客サービスはコストが高く、商品の値段は高くできない。どうやって利益を出すのか。
価格は必ずしも安くなくてはならないわけではない。アップルはほかのコンピュータの3倍高い。ルイ・ヴィトンのバッグも。ステンゲル50のほとんどはプレミアム価格で製品やサービスを売っている。それだけの付加価値があると思えば高いお金も払う。どこに価値があるのかを理解しなければならない。大事なのは、消費者の気持ちに共感できることだ。
──アメリカの大統領選で再選されたオバマ大統領と敗北したロムニー候補にも言えることだとブログに書いていた。
そうだ。オバマには高い理念があり、ロムニーにはなかった。オバマは中間所得層を豊かにするために働くと言った。ロムニーは税金と財政支出を減らすと言った。これは個別の政策であって理念ではない。オバマの主張には人々の心に訴えるものがあった。理念の重要さは企業にとっても同じだ。理念があれば優れた人材も集まるし、従業員の士気も上がるし、使命感も生まれる。ロムニーには人を感動させるところが皆無だった。
──若いエグゼクティブに望むことは。
好奇心。勇気。決断するのに恐れてはいけない。日本にはそれが欠けているようだ。目立ちたがらない。好きな仕事ほどよくできる。だから自分の好きな仕事を見つけることがとても大事だ。
千葉香代子(本誌記者)
http://news.finance.yahoo.co.jp/detail/20130123-00010001-newsweek-column
小森康充<
日本企業の現在の状況を昔のP&Gのパンパースの失敗に例えています。
ブランド戦略の重要性というポイントでたいへん参考になります。
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ブランド価値が企業の優劣を決める今、やみくもに品質を追求してじり貧に陥らないための、本当の成長戦略とは
メンター P&Gを大きく成長させた経験から経営者に助言するステンゲル
日本ブランドが危なくなって久しい。今では世界に2つとない心躍る製品を生み出しているのはソニーでもパナソニックでもなくアップルであり、アップルを脅かしているのはサムスン電子だ。さらにそのすぐ後ろには、中国勢も迫っている。
一方、株式時価総額に占めるブランド価値の比率は高まる一方で、ブランド戦略は成長戦略そのもの。米プロクター&ギャンブル(P&G)の元グローバル・マーケティング責任者で『本当のブランド理念について語ろう──「志の高さ」を成長に変えた世界のトップ企業50』の著者であるジム・ステンゲルに、ブランド価値向上の秘訣と日本ブランド再生のヒントを聞いた。
──消費者の忠誠心と財務成績をベースに世界のトップブランドをランキングした「ステンゲル50」に入った日本企業は、楽天市場一社だけだった。なぜこんな結果になったと思うか。
日本にもトヨタ自動車のように素晴らしい会社があり、私は高く評価している。東日本大震災の影響がなければ、トヨタはリスト入りしていただろう。
一方、日本企業はあまりにも長い間、製品、技術、生産すべてがうまく行き過ぎて、マーケティングをあまり重視してこなかったのも事実だ。製品は勝手に売れたし、販売網もあったし、市場も大きかった。未来を作らず、新しい需要も作らず、革新的な製品も生まれない。だが、今後数年の間には非常に面白い変化が起こるだろう。主要産業の主要企業のなかにも、うまくいかないところが出てきたからだ。
成長する企業はマーケティングを重視し、グローバルに戦えるブランドを作る。日本に必要なのはグローバルブランドだ。韓国にも中国にも非常に強いブランドがある。日本企業はいくつかの韓国企業に遅れているし、中国企業も急速に台頭している。彼らには、グローバルブランドを作ろうという大きな野心がある。その点、日本は遅れている。
──アメリカの優良企業で構成するS&P500社の株式時価総額のうち、1980年にはほとんどすべてが工場や現金などの有形資産だったが、2010年にはそれが40〜45%に落ち込んで、半分以上がブランド価値のような無形資産になったとある。
ブランドの重要性を裏付けるデータだ。実際、「ステンゲル50」に入ったトップブランド企業とS&P500社の株価のパフォーマンスを比べると、2000年1月からの11年間でステンゲル50社の株価は382.3%、S&P500社は−7.9%と大きな差がついている。
ブランドの価値が会社の価値の半分を占めるなら、当然、それに責任を負う人間が必要だ。日本企業には、そういう人間がいないのではないか。
──それは、あなたもP&Gで務めたグローバル・マーケティング責任者とかCMO(最高マーケティング責任者)のことか。
マーケティング部門の責任者は必ず必要だ。多くの日本企業はマーケティングを財務や技術開発のような専門として見ていな い。販売促進活動の一環のように思っている。それが問題だ。販売が目指すのは、今日、明日、来月などの短期でたくさん売り上げること。マーケティングは長期的に需要を創造するもの。製品開発を根本から変えるようなもの。マーケティングは消費者を理解し、企業に長期的な勝利をもたらすものだ。
── 具体的には?
企業のビジネスの背景にある理想を定義づけ、それを広く全社員と分かち合い、一丸となってその理想を追い求め、各部署で理想を具体化するための行動に落とし込む。これがマーケティングで、この一連のプロセスを完結させるにはリーダーがいなければならないし、強力なマーケティング部隊がなければ実現は難しいだろう。
とはいえ、誤解しないでもらいたい。これはマーケティングについての本ではない。企業の哲学、成長へのアプローチに関する本、企業を率いるリーダーすべてにとっての本だ。私はP&Gにいた25年のうち18年間はマーケティング以外のさまざまな仕事をしていた。この本はいかにして持続的な成長を可能にするかについてのものだ。
──急速に成長を遂げるビジネスを動かしているのは「ビジネス・アーティスト」だとあなたは言う。ビジネス・アーティストとは何か。
成長ブランドの創造には人々を感動させ魅了するブランド理念が欠かせないが、それはビジネスマンよりアーティストの仕事だ。フランスの高級ブランド企業、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)のベルナール・アルノーCEO兼会長はこう言っている。「スター・ブランドは、芸術的で創造的な精神からしか生まれない」
実際、偉大な製品、勢いのある組織、消費者ニーズのいち早い発掘、差別化の上手さなどで優れた企業を思い起こせば、必ずそこにはビジネス・アーティストがいる。スティー ブ・ジョブズはもちろん、その最たる例だ。彼の場合、ビジネス運営面はCOO(最高執行責任者)だったティム・クックが担っていた。一人で二役を兼ねられるリーダーもいるが、別々でもとにかく権限をもつアーティストがいることが重要だ。LVMHのアルノーは、傘下の企業のすべてで、ビジネス運営者の役割とアーティストの役割を別々の人物に任せている。
成長しない会社というのは戦術やオペレーションのことばかり考えていて、ビジネスの創造的で芸術的な側面のことをやっていない。脳の片側、論理面しか使っていないCEOが多い。そしてもう片方の感性面には苦手意識をもっている。だが組織を率いるリーダーは本来、感情的に成熟していなければならない。
そういうリーダーが少なすぎる。ビジネススクールはビジネス運営者ばかりを量産しているが、もっとアーティストが必要だ。
──ブランド理念というのは具体的にどういうものか。
理念はブランドに生命を吹き込むものだ。その点、15年前のパンパースは死んだも同然だった。紙オムツのパイオニアだったにも関わらず、後発企業に市場を奪われウォール街からはP&Gのお荷物扱いまでされるようになった。なぜなら、当時のパンパースはひたすら、吸水性がよくすぐ乾くという利点だけを追い求めていたからだ。品質や機能に重きを置きすぎるというのは、今の日本企業にも共通する問題だろう。いいものは作る。だが他社製品と大して変わらない。
パンパースに足りなかったのは、いかに人々をハッピーにして喜ばせるか、驚かせるか、人生を素晴らしいものにするか、という高次の理念だった。母親たちがいつも心配しているのは、オムツが他社製品より速く乾くかどうかではなく、赤ちゃんが幸せか、ちゃんと育っているか、食べているか、ということだ。
だったらオムツのことは脇へ置き、赤ちゃんを育てる母親の友達になることをブランド理念にしようと考えた。すると、赤ちゃんの発達段階に合わせたオムツを開発したり、ウェブサイトで子育てについての質問に答えるサービスを立ち上げるなどの発想が生まれてきた。これまで乾きやすいオムツを作って売るだけの仕事に物足りなさを感じていた社員も一丸となって母親たちのことを考え始めた。次第に母親たちにも支持してもらえるようになり、売上は3倍になり、利益も増えた。
──当たり前のようだが、顧客不在の製品開発になってはいけない。
顧客不在で成長している企業は思いつかない。偉大な企業はみな顧客中心主義だ。顧客サービスでナンバーワンの企業の例を挙げよう。アマゾン・ドットコムに買収されたシューズ通販会社のザッポスだ。彼らの理念は、幸せを配達すること。従業員は顧客と長電話したほうが評価が高い。顧客のほうも、一度電話すればザッポスが大好きになる。靴のサイズがわからなければ3サイズ送る。商品は他の店と大して変わらないのに、顧客の忠誠心は極めて高い。
──顧客サービスはコストが高く、商品の値段は高くできない。どうやって利益を出すのか。
価格は必ずしも安くなくてはならないわけではない。アップルはほかのコンピュータの3倍高い。ルイ・ヴィトンのバッグも。ステンゲル50のほとんどはプレミアム価格で製品やサービスを売っている。それだけの付加価値があると思えば高いお金も払う。どこに価値があるのかを理解しなければならない。大事なのは、消費者の気持ちに共感できることだ。
──アメリカの大統領選で再選されたオバマ大統領と敗北したロムニー候補にも言えることだとブログに書いていた。
そうだ。オバマには高い理念があり、ロムニーにはなかった。オバマは中間所得層を豊かにするために働くと言った。ロムニーは税金と財政支出を減らすと言った。これは個別の政策であって理念ではない。オバマの主張には人々の心に訴えるものがあった。理念の重要さは企業にとっても同じだ。理念があれば優れた人材も集まるし、従業員の士気も上がるし、使命感も生まれる。ロムニーには人を感動させるところが皆無だった。
──若いエグゼクティブに望むことは。
好奇心。勇気。決断するのに恐れてはいけない。日本にはそれが欠けているようだ。目立ちたがらない。好きな仕事ほどよくできる。だから自分の好きな仕事を見つけることがとても大事だ。
千葉香代子(本誌記者)
http://news.finance.yahoo.co.jp/detail/20130123-00010001-newsweek-column
小森康充<