2018年12月29日
圧倒的な結果をもたらす目標設定法「具測達一の原則」とは。書籍「仕事ができる人はなぜ決断力があるのか」(生産性出版)より
圧倒的な結果をもたらす目標設定法「具測達一の原則」とは
今日は書籍「仕事ができる人はなぜ決断力があるのか」(生産性出版)より目標設定のポイントを紹介します。
1)具体的
2)測定可能
3)達成可能
4)一貫性
この4つの最初の文字をつなげて「具測達一」と呼びます。
具体的で、数値にして測定しやすく、現実的に達成できる値であり、そして、会社の方針との一貫性がある目標を設定することによって、目標を達するプロセスの中で何をすべきかが明確になり、まわりのサポートを得て、最短距離で成果に結びつくことを可能とするのです。
4つのポイントについて、それぞれ詳しく見てみましょう。
1)具体的
目標設定に限らず、ビジネスにおいては、数字、日付、固有名詞、これらの極めて具体的な事柄がなければ話になりません。
私が営業課長だとして、山田君という部下がいたという過程で次のようなやりとりがあったとしましょう。
ある日、山田君が息せき切って私の席にやってきて、こう報告しました。
「小森課長大変です」
「なんだ、どうした?」
「競合の花王のメリーズブランの新商品がすごいらしいです」
「どうすごいんだ?」
「とにかく、画期的な商品みたいなんですよ。うちも対策を打たないとパンパースが売れなくなってしまいます」
なるほど、山田君の慌てている様子から、相当に大変そうだということは伝わります。
しかし、小森課長は山田君のこの報告ではどんなアクションもできません。
なぜなら、何も具体性がないからです。「花王のメリーズブランドの新商品すごい」と言われても何がどうすごいのか、山田君の話からさっぱり見えてきません。
では、具体的な報告とはどのようなものでしょうか。
同じシチュエーションで見てみましょう。
山田君が息せききって私の席にやってきてこう言いました。
「小森課長大変です」
「なんだ、何があった?」
「花王のメリーズブランドの新商品情報が入りました」
「おお、どんな情報だい」
「発売日は10月1日、価格は2980円です。高分子吸収体を20パーセント増量して、尿漏れを徹底的に抑える仕様です」
「それが本当なら、うちの製品以上じゃないか」
「はい、しかもテレビコマーシャルを3カ月間入るそうです」
「しかし、その情報、どこまで信頼できるんだ」
「この情報は○○卸店の山本部長からの情報です。山本部長の情報はいつも極めて正確ですので、この情報も80パーセントぐらいの確立で当たっているはずです。うちのパンパースも何か対策を打ったほうがいいと思います」
これぐらい具体的な情報を得られたら、課長である私は、山田君の話をベースに本社の企画部長にレポートを提出します。すると、会社全体で素早く対策に動けるわけです。
2)測定可能
測定可能ということは、数値などに換算することで、現状から目標までの差、対策を打ったときの進捗度を明確にし、より目標達成の可能性を高めることになります。
たとえば、陸上競技の選手が目標を掲げるときに、「オリンピックに出場する」という目標ではいささか弱い。あえていえば、「オリンピックに出場する」というのはビジョンであって目標ではありません。オリンピックにでるためにはどのような条件を満たさなければならないか、これがわからなければ目標とはいえないのです。
調べてみると、オリンピックに出場するためには、日本陸上競技連盟が定めた選考レースでどれぐらいの記録を出し、どのレースで何位以内に入賞するといった参加条件が公表されていることがすぐにわかるはずです。
標準記録は〇秒以内で、かつ、何月何日に行われる何というレースで何位以内ということが決まっているのだから、あとはやることがおのずと導き出されます。
たとえば、自分のベスト記録と出場条件の記録の間には3秒の差があったとしましょう。どうすれば10秒の差が埋められるか、考えます。筋力トレーニングの強化で1秒、フォームの改善で1秒、スタートダッシュの強化で1秒といったように仮説を立てていって、実践しては進捗状況を見て練習方法や戦略を工夫する。こうした継続的努力の積み上げによって、始めて目標値に近づいていくのです。
ビジネスの場合も同様、「業界一位になる」、「ライバルの抜く」というのはビジョンであって目標ではありません。
ビジョンを具体的な指針になる指標に落とし込むためには、測定可能な数値に置き換える必要があります。
つまり、「業界一位になる」、「ライバルを抜く」というビジョンを達成するためには、どれだけ売上ればいいのか。そこを数値化し、現状との差を測定、達成期日を決めて年間目標、月間目標、週間目標、日間目標に落とし込み、毎日達成度合いをチェックして修正を加えながらゴールへと向かうわけです。
3)達成可能
目標値というのはそもそも達成可能でなければなりません。物理的に不可能な夢みたいな数字ではだめだということです。かといって、ちょっと頑張れば達成しそうな無難な数値というのもだめです。高いビジョンを示し、どうにか達成できる目標を必死になって考えることが重要です。
私自信の経験でいうと、P&Gが買収した化粧品会社、マックスファクター化粧品の営業部長をやっていたときのことを思い出します。
金沢の大きなショッピングセンターにマックスファクターが出店することになり、金沢担当の営業は張り切っています。そこで、従業員みんなが結束できるようなビジョンがほしいと思った私は、金沢担当の営業と一緒に、「施設内の化粧品店の中で売上ナンバーワンを目指そう」というスローガンを発表しました。
これがいかに無謀なビジョンかというと、このとき、ショッピングセンターに出店していた化粧品ブランドは、資生堂、カネボウ、コーセーといったいずれも国内トップブランドの面々です。
売上規模で言えば、マックスファクターはその中で断トツの最下位でした。宣伝量も販売員数も販促費もまったくかないません。そんな中で「ナンバーワンを目指す」などと言えば、よほど業界事情に疎いか、そうでなければただの大ぼら吹きです。
でも、現場のやる気を引き出すために、私たちはどうしてもこの無謀とも思えるビジョンを叶える必要がありました。
もちろん、普通にやればどうがんばっても無理。そこで、頭をひねってたどり着いた目標が、「1カ月だけでいいから1位になろう」というものです。年間を通して1位を獲得するのは無理でも、12カ月のうちの1回ならトップをとれるのではないかと考えました。
具体的に何をしたかというと、ショッピングセンターにかけあって、通常の売場とは別にイベントスペースを1カ月特別に貸してもらい、セール品を大量に陳列。普段は月に1度しかやらない販促を毎週実施し、北陸地方の美容部員を総動員して販売にあたりました。要するにヒト、モノ、カネを集中したのです。
そのかいあって、普段の月の3倍の売上を記録。宣言通り、たった1カ月のことではあったが、実際にトップをとったのです。
私のやったことは、ほんの小さな一歩でしたが、この一歩が後にもたらした効果は大きかったと自負しています。特に「資生堂に勝った」という事実は社内に大きな刺激を与えました。どこへ出店しても最下位が定位置で、がんばって、やっと順位が一つ二つ上がるぐらいのマックスファクターが、国内トップブランドである資生堂を一瞬でも売上で抜くなど思いもしていなかった時代のことです。それが、ほんの一カ月といえ、実際に抜きました。負け癖がついていた従業員たちに、「やればできる」という意識が芽生えたのです。
4)一貫性
マックスファクター化粧品を、あるショッピングセンターの化粧品売り場で売上1位にするという目標を達成できたのはなぜでしょうか。
さも私がやったようなことを言いましたが、実のところ、成し遂げたのは私ではなく現場の従業員です。
私がやったことは、現場の声を救い上げ、彼ら、彼女たちが本当に成し遂げたいことを具体的に目標設定したまでのことです。
たった1カ月だけでもいいから、資生堂を抜きたいというのは、私の独りよがりのビジョンではないということです。
みんな口には出さないけれど、悔しい思いを持っていたのです。マックスファクター化粧品は、品質や品揃えでは決してライバルに劣っていないのに、日本ではどうしてもブランド力が弱い。マックスファクター化粧品のよさをもっと多くの人に知ってほしいというのが、彼ら彼女らの願いでした。
そうした気持ちに火をつけたことで、現場が自発的に盛り上がってとてつもない目標を達成したのです。
もう一つ、重要なことは、なぜヒト、モノ、カネが集中できたかです。
これらは、当然ながら会社の許可なく勝手に動かせるわけではありません。たとえ現場が求めていることであっても、会社のルール、経営方針、事業計画の範囲を超えて現場を動かすことは許されないわけです。
したがって、会社方針と一貫性のある目標設定が前提になっていなければなりません。それでこそ、会社の支援、上司の理解、同僚の応援を受けて、ヒト、モノ、カネが動かせるわけです。
そもそも、会社が考えた営業戦略は、大きな時代の流れ、マーケットの動き、自社の持っている強み、ライバルの動向などいろいろな情報から導き出された最適解のはずであり、全社員がその方針に沿って行動することによって組織力が発揮されます。会社方針との一貫性を持たせることによって目標が達成しやすくなるのが道理なのです。
とはいえ、会社の方針をただ単にそのまま現場に支持するだけでは能がありません。現場の求めていることと、会社方針の一貫性がとれた目標設定によって始めて、現場の最大の力が発揮されるわけです。